ファイルサーバのアクセスログやドメインコントローラのイベントを見ていると、「NTLM」という文字をよく見かけます。Active Directoryの標準の認証はKerberosのはずなのに、なぜ今もNTLMが動いているのか。Microsoftが「NTLMを既定で無効にする」と発表したとき、自分の環境で何が止まるのか。気になっている方も多いと思います。
この記事では、NTLMの仕組みをメッセージ1つずつ追ったうえで、今もNTLMが使われている場面、廃止される理由、そしてNTLMを減らしていく進め方を整理します。
- NTLMとは何か、いつ生まれ、どう変わってきたか
- NTハッシュと、NEGOTIATE・CHALLENGE・AUTHENTICATEのやり取り
- IPアドレス指定、プロキシ認証、Wi-Fiなど、今もNTLMが残るユースケース
- リレー攻撃やPass-the-Hashなど、NTLMが危ない理由
- 廃止のロードマップと、NTLMを減らす進め方
この記事は3本シリーズの1本目です。①NTLM(この記事)→ ②Kerberos認証の基礎 → ③Microsoft Entra Kerberos の順に読むと、Windowsの認証が古い方式から新しい方式へどう移ってきたかがつながります。
NTLMを一言でいうと
NTLM(NT LAN Manager)は、Windowsで使われてきた「チャレンジ/レスポンス方式」の認証プロトコルです。サーバが毎回ちがう乱数(問題)を出し、クライアントはパスワードから作った値でその問題を計算して答えを返します。サーバは答えが正しいかどうかで、相手が本当にパスワードを知っているかを判断します。
パスワードそのものはネットワークに流れません。ただし、ドメインのアカウントの場合、ファイルサーバはユーザーのパスワード情報を持っていないので、受け取った問題と答えをDC(ドメインコントローラ)に転送して答え合わせを頼みます。この「DCに転送して確かめる」点が、NTLMを理解するうえでいちばん大事なところです。
| 登場人物 | 役割 |
|---|---|
| クライアント | ユーザーが使うPC。パスワードから作ったNTハッシュを使って、サーバの問題に答えます。 |
| サーバ | ファイルサーバやWebサーバなど、アクセスされる側です。問題を出し、答えをDCに転送して確かめてもらいます(ローカルアカウントなら自分で確かめます)。 |
| DC | ドメインのユーザーのNTハッシュを持っていて、答え合わせをします。結果と一緒に、ユーザーの所属グループなどの情報もサーバに返します。 |
NTLMの歴史と種類
NTLMは1993年のWindows NTとともに登場しました。さらに古いLAN Manager(LM)の方式を置き換えるものでしたが、今の基準で見るとNTLMv1の計算も弱く、Windows NT 4.0 SP4で改良版のNTLMv2が使えるようになりました。Windows 2000からはActive Directoryの標準の認証がKerberosになり、NTLMは「Kerberosが使えないときの代わり(フォールバック)」という位置づけになっています。
そして2024年6月、MicrosoftはNTLM全体(LANMAN、NTLMv1、NTLMv2)を非推奨にしました。NTLMv1はWindows 11 24H2とWindows Server 2025で削除され、2026年1月には「次のメジャーリリースでネットワークのNTLMを既定で無効にする」というロードマップが公表されています。
| 方式 | 応答の作り方 | 今の扱い |
|---|---|---|
| LM(LAN Manager) | 大文字にしたパスワードをもとにしたLMハッシュとDES | 非常に弱く、現在は使わない |
| NTLMv1 | NTハッシュ(MD4)を3つのDES鍵に分けて、サーバの乱数を暗号化 | Windows 11 24H2/Windows Server 2025で削除 |
| NTLMv2 | NTハッシュとユーザー名からHMAC-MD5で鍵を作り、サーバの乱数・時刻・クライアントの乱数などを計算 | 非推奨。今もフォールバックとして動いている |
Windowsのグループポリシー「ネットワーク セキュリティ: LAN Manager 認証レベル」の既定値は3(NTLMv2の応答だけを送る)です。この記事でも、特に断りがなければNTLMv2を前提に説明します。
NTLMの仕組み
出発点はNTハッシュ
NTLMの計算はすべて「NTハッシュ」から始まります。NTハッシュは、パスワードをUTF-16LEという文字コードに変換し、MD4というハッシュ関数にかけた16バイトの値です。ローカルアカウントならそのPCのSAM、ドメインのアカウントならADのデータベースに保存されています。
NTハッシュにはソルト(ユーザーごとのランダムな値)が混ざらないので、同じパスワードからはいつも同じ値ができます。そして、NTLMの応答はNTハッシュさえあれば計算できます。つまりNTハッシュは、実質的にパスワードと同じ価値を持つ情報です。これが後で説明するPass-the-Hash攻撃の原因になります。
5つのやり取りをシーケンスで見る
ドメインのアカウントでファイルサーバにアクセスするときの流れを、シーケンス図にまとめます。クライアントとサーバの間で3つのメッセージ、サーバとDCの間で2つのやり取りがあります。メッセージ名はMicrosoftの仕様書(MS-NLMP)の呼び方で、Wiresharkでもこの名前で表示されます。
NTLMのメッセージは、単独で流れるのではなく、SMBのセッション確立やHTTPのヘッダの中に入れて運ばれます。ここから、1つずつ「誰から誰へ、何を送っているか」を見ていきます。
NEGOTIATE:「NTLMで認証したい」と伝える
クライアントからサーバへ、NEGOTIATEメッセージを送ります。中身は「自分が使える機能」を表すフラグの集まりで、NTLMv2の応答を使えるか、署名や暗号化に対応しているか、などを伝えます。この時点では、ユーザーを表す情報はまだ入っていません。
CHALLENGE:サーバが問題を出す
サーバからクライアントへ、CHALLENGEメッセージを返します。いちばん大事なのは、8バイトの乱数(サーバチャレンジ)です。この乱数は毎回変わるので、過去の答えを盗み見て使い回すことはできません。
あわせて、TargetInfoと呼ばれる情報も入ります。サーバ名、ドメイン名、時刻などで、NTLMv2ではクライアントがこれを応答の計算に含めます。
AUTHENTICATE:答えを返す
クライアントからサーバへ、AUTHENTICATEメッセージを送ります。ユーザー名、ドメイン名、端末名と、NTハッシュを使って計算した応答(NTLMv2応答)が入っています。あわせて、3つのメッセージが途中で書き換えられていないことを示すMIC(Message Integrity Code)も付きます。
NTLMv2応答は、次の2段階で作ります。まずNTハッシュを鍵にして、ユーザー名とドメイン名からユーザーごとの鍵(NTOWFv2)を作ります。次にその鍵で、サーバの乱数、時刻、クライアントが作った乱数、TargetInfoをまとめてHMAC-MD5にかけ、16バイトのNTProofStrを作ります。
パススルー認証:サーバがDCに確認を頼む
ドメインのアカウントの場合、サーバはユーザーのNTハッシュを持っていません。そこで、ユーザー名、自分が出した乱数、クライアントの応答をDCに送り、答え合わせを頼みます。これをパススルー認証といいます。
この通信には、Netlogonのセキュアチャネルを使います。セキュアチャネルは、サーバがドメインに参加したときに作られるコンピュータアカウントの資格情報で保護された、サーバとDCの間の専用の通り道です。
結果を返す:DCからサーバへ
DCは自分が持っているNTハッシュで同じ計算をし、答えが一致すれば成功をサーバに返します。このとき、ユーザーのSIDや所属グループのSIDなどのユーザー情報と、セッション鍵(SessionBaseKey)も一緒に返します。
サーバはユーザー情報からアクセストークンを作り、フォルダのACLと照合してアクセスを許可するかを決めます。セッション鍵は、SMB署名など、その後の通信の保護に使います。なお、このユーザー情報の形は、Kerberosのチケットに入るPAC(次の記事で説明します)と同じ系統の構造です。
ローカルアカウントの場合
サーバ自身のローカルアカウント(例:NASやワークグループのPCのユーザー)でアクセスするときは、STEP 4と5がありません。サーバは自分のSAMにあるNTハッシュで同じ計算をし、その場で答え合わせをします。ドメインに参加していない機器どうしでNTLMが使われ続けているのは、このためです。
今もNTLMが使われている場面
ADのドメイン環境では、Windowsはまず Kerberos を試し、使えなかったときにNTLMに切り替えます(Negotiateという仕組みです)。そのため、管理者が意識しないうちに、さまざまな場面でNTLMが使われています。Microsoftも、NTLMが残る原因として「NTLMを直接指定しているアプリ」「Kerberosの前提が欠けている」「NTLMしか使えない古い機器」「ローカルアカウント」の4つを挙げています。
| 場面 | NTLMになる理由 | Kerberosにするには |
|---|---|---|
| IPアドレスでアクセス | Kerberosはサービスを名前(SPN)で指定する仕組みで、既定ではIPアドレスに対してKerberosを試しません | FQDNでアクセスするよう直します。どうしても無理な場合は TryIPSPN とIPのSPN登録 |
| ワークグループ・ローカルアカウント | KDCがいない(ローカルアカウントのチケットを出す人がいない) | ドメインに参加させる。今後はLocalKDCで対応予定 |
| SPNの不備 | SPNが未登録・重複・別名(CNAME)と食い違うと、チケットを取れない | setspn -Q と setspn -X で確認して直す |
| DCに届かない | 社外からVPNなしで接続、DMZのサーバなど、クライアントがKDCと通信できない | VPNやKDCプロキシ。今後はIAKerbで対応予定 |
| 信頼のない別ドメイン | 信頼関係がないドメインのアカウントでは、Kerberosのチケットを取れない | 信頼関係を作る。Microsoftは今後のリリースでの対応を予定 |
| NTLMを直接指定するアプリ | アプリがNegotiateではなくNTLMを名指しで使っている | アプリの修正(Negotiateを使うようにする)、ベンダーへの確認 |
| 非Windows・古い機器 | NAS、複合機のSMB送信、古いLinuxやアプライアンスがNTLMにしか対応していない | ファームウェアの更新、Kerberos対応機種への入れ替え |
この中から、現場でよく相談を受ける4つの場面を詳しく見ていきます。
IPアドレスでアクセスしている
いちばん多いのがこのパターンです。\\fs01.corp.example\share のように名前で指定すると、クライアントは cifs/fs01.corp.example というSPNのチケットを取りにいけます。ところが \\10.0.0.10\share のようにIPアドレスで指定すると、Windowsは既定でKerberosを試さず、NTLMで認証します。
ドライブの割り当て、ショートカット、バッチファイル、業務アプリの接続文字列などにIPアドレスが書かれていることはよくあります。Microsoftも「プラットフォーム側の対応を待たず、今のうちにIPアドレスでの認証をなくしていくこと」を勧めています。Windows 10 1507/Windows Server 2016以降では、クライアントのレジストリ TryIPSPN と、IPアドレスのSPN登録でKerberosを使うこともできますが、クライアントごとの設定が必要で、IPアドレスの固定も前提になります。
クライアント(管理者のコマンドプロンプト):IPアドレスでもKerberosを試すようにする設定
reg add "HKLM\SOFTWARE\Microsoft\Windows\CurrentVersion\Policies\System\Kerberos\Parameters" /v TryIPSPN /t REG_DWORD /d 1 /f
DC:IPアドレスのSPNを、サービスを動かすアカウントに登録する(例)
setspn -s host/10.0.0.10 fs01
Webプロキシの認証
社内からインターネットに出るときに、Webプロキシでユーザーを認証している企業は多いと思います。ユーザー名とグループでURLフィルタやログを分けるためです。このとき、プロキシはHTTPの407応答で認証を求め、ブラウザは Proxy-Authorization ヘッダにNTLMのメッセージを入れて送ります。プロキシは受け取った応答をDCに確認し、ユーザーとグループを特定します。
HTTPのNTLMは、③〜⑤を同じTCP接続のままやり取りする必要があります。途中で接続が切れると認証をやり直すことになるので、プロキシの前段にロードバランサがある構成では、接続の扱いに注意が必要です。
プロキシの認証は、Negotiate(Kerberos)に切り替えるのが難しい場面の代表です。理由は次のとおりです。
| Kerberosにしにくい理由 | 内容 |
|---|---|
| プロキシのSPNと鍵が必要 | HTTP/proxy.corp.example のSPNをADのアカウントに登録し、その鍵(keytabなど)をプロキシ装置に入れる作業が必要です。 |
| プロキシを名前で指定する必要がある | ブラウザのプロキシ設定やPACファイル、WPADでプロキシをIPアドレスで書いていると、SPNを組み立てられずNTLMになります。 |
| 複数台・負荷分散 | 複数のプロキシを1つの名前で見せる場合、全台で同じアカウントの鍵を使うよう設計する必要があります。 |
| ドメイン外の端末 | ドメインに参加していない端末やWindows以外の端末は、KerberosのチケットをもらえずNTLMやBasic認証に頼りがちです。 |
プロキシ製品の多くはNegotiateとNTLMの両方に対応していますが、上の準備ができていないと、ブラウザはNTLMで認証を続けます。プロキシの基本は 【図解】フォワードプロキシとリバースプロキシの違い、NTLMでプロキシ認証を設定した例は 【Fortigate】プロキシ認証(Explicit Proxy+NTLM認証) で紹介しています。
Wi-Fi・VPNのMSCHAPv2
社内Wi-Fiの802.1X認証で、PEAP-MSCHAPv2を使っている環境は今も多くあります。NPS(RADIUSサーバ)がDCにユーザーの確認を頼む流れは、NTLMのパススルー認証とよく似ています。そして、MSCHAPv2の応答の計算は、NTLMv1と同じ関数(NTハッシュとDES)を使っています。
MicrosoftはMSCHAPv2について、NTLMv1と同じ弱い暗号への攻撃を受けると説明しており、Credential Guardを有効にするとMSCHAPv2はシングルサインオンに使えなくなります。NTLMv1の廃止に関連して、Wi-Fi、有線LAN、VPNのSSOに影響が出る場合があることも案内されています。長い目で見ると、証明書を使うEAP-TLSへの移行が本筋です。RADIUSの仕組みは 【図解】RADIUSプロトコルがよくわかる! で解説しています。
NTLMを直接使うアプリ・機器
アプリケーションが認証方式としてNTLMを名指ししている場合、KerberosのSPNやDCが整っていても、NTLMしか使われません。古い業務アプリ、スクリプト、組み込み機器、他社製のアプライアンスなどがこれに当たります。Microsoftは、ソースコードの中から NTLM や NTLMSSP の文字列を探し、Negotiateに置き換えることを勧めています。他社製品の場合は、ベンダーに対応予定を確認するのが近道です。
なぜNTLMは危ないのか
Microsoftは、NTLMを廃止する理由として「サーバを確かめられない」「リプレイ・リレー・Pass-the-Hash攻撃に弱い」「暗号が弱い」「ログで使われ方が見えにくい」を挙げています。それぞれを見ていきます。
相手のサーバが本物か確かめられない
NTLMでは、サーバがクライアントを確かめるだけで、クライアントはサーバが本物かどうかを確かめません。NTLMは「サーバは正しい」という前提で作られているためです。これが次のリレー攻撃の土台になります。Kerberosでは、サーバもチケットを開けられることで自分が本物だと示せます(相互認証)。
NTLMリレー攻撃
攻撃者は、偽のサーバにクライアントを接続させ(細工したリンクや名前解決の乗っ取りなど)、クライアントとのNTLMのやり取りを、そのまま本物のサーバに中継します。クライアントは正しいパスワードで正しく計算した答えを返すので、本物のサーバは攻撃者を「そのユーザー」として受け入れてしまいます。
対策は、認証とその後の通信を結び付けることです。SMB署名を必須にすると、セッション鍵を知らない攻撃者は正しい署名を付けられません。LDAPやHTTPでは、認証をTLSの通信路に結び付ける拡張保護(EPA、LDAPではチャネルバインディング)を有効にします。
| プロトコル | 主な対策 |
|---|---|
| SMB | SMB署名を必須にする(Windows Server 2025では送信側で既定で必須)。SMBクライアントのNTLMブロック |
| LDAP | LDAP署名の要求と、LDAPSでのチャネルバインディング(CBT)の要求 |
| HTTP(IIS、AD CSのWeb登録など) | HTTPSと拡張保護(EPA) |
Pass-the-Hash
NTLMの応答はNTハッシュだけで計算できるので、パスワードを知らなくても、NTハッシュを盗めばそのユーザーとして認証できます。管理者がサインインしたことのあるPCが乗っ取られ、メモリ(LSASS)からNTハッシュを抜き取られると、そのハッシュで別のサーバへ次々とログオンされます。ランサムウェアの侵入後に、社内で被害が広がる典型的な流れです。
対策としては、Credential GuardでLSASSの資格情報を保護する、ローカル管理者のパスワードをLAPSでPCごとに変える、特権アカウントを一般のPCにサインインさせない、といった組み合わせが基本です。Protected Usersグループのメンバーは、NTLMでの認証そのものができなくなります。
応答の解析と、弱い暗号
ネットワーク上で応答を盗み取られると、攻撃者は手元で時間をかけてパスワードを総当たりできます。NTLMv1はDESを使っているので特に弱く、NTLMv2でもパスワードが単純なら割り出されるおそれがあります。MD4やHMAC-MD5といった古い暗号の上に作られていることも、廃止の理由の1つです。
DCへの負荷と、見えにくさ
NTLMでは、サーバが認証するたびにDCへの問い合わせが発生します。また、これまでのNTLMのログでは「どのプロセスが、なぜNTLMを使ったのか」まで分かりませんでした。これは次の章で紹介する「強化されたNTLM監査」で改善されています。
| 弱点 | 何が起きるか | 主な対策 |
|---|---|---|
| 相互認証がない | 偽のサーバにだまされる | Kerberosへの移行 |
| リレー | 応答を中継され、別のサーバにログオンされる | SMB署名、EPA、チャネルバインディング |
| Pass-the-Hash | 盗まれたNTハッシュでログオンされる | Credential Guard、LAPS、特権アカウントの分離 |
| 弱い暗号 | 盗んだ応答からパスワードを割り出される | NTLMv1の廃止、長いパスワード、Kerberosへの移行 |
廃止へのロードマップ
Microsoftは、NTLMを一度に消すのではなく、段階を踏んで減らしていく計画を公表しています。2026年1月の発表では、次の3つのフェーズが示されました。日程は変わる可能性があると明記されているので、最新の情報は Microsoftの案内(aka.ms/ntlm) で確認してください。
| フェーズ | 内容 |
|---|---|
| フェーズ1:見える化 | 強化されたNTLM監査で、誰が・なぜ・どこでNTLMを使っているかを把握する。Windows 11 24H2以降とWindows Server 2025で利用できる |
| フェーズ2:主な原因の解消 | DCに届かない場合のIAKerb、ローカルアカウント用のLocalKDC、Windowsの部品がKerberosを先に試すようにする改修。2026年後半にWindows Server 2025とWindows 11 24H2以降向けに提供予定 |
| フェーズ3:既定で無効 | 次のメジャーリリースで、ネットワークのNTLMを既定で無効にする。必要ならポリシーで再び有効にできる |
「既定で無効」は、NTLMをWindowsから削除するという意味ではありません。NTLMの部品はしばらく残り、どうしても必要な環境では管理者がポリシーで有効に戻せます。また、今使っているWindows Server 2019/2022/2025やWindows 10/11で、ある日突然NTLMが止まるわけでもありません。完全な削除は、依存がなくなってからの長期的な目標とされています。
IAKerbとLocalKDC
NTLMが残る大きな理由である「DCに届かない」と「ローカルアカウント」に対して、Microsoftは2つの仕組みを用意しています。IAKerbは、クライアントがDCと直接通信できないときに、接続先のサーバがKerberosのやり取りをDCまで中継する仕組みです。LocalKDCは、Windowsの中に小さなKDCを組み込み、ローカルアカウントにもKerberosのチケットを出せるようにする仕組みです。
どちらもWindows Insiderのプレビュービルドで提供されていて、Windows Server 2025とWindows 11向けに一般提供される予定です(2026年9月時点の案内)。
NTLMを減らす進め方
NTLMを減らす作業は、「どこで使われているか分からない」ところから始まることがほとんどです。Microsoftが紹介している進め方を、5つのステップに整理します。
監査:どこで、なぜ使われているかを知る
Windows 11 24H2以降とWindows Server 2025では、強化されたNTLM監査を使えます。クライアント、サーバ、DCのそれぞれで、NTLMを使ったアカウントとプロセス、相手のマシン名とIPアドレス、そしてKerberosではなくNTLMになった理由(SPNがない、DCに届かない、ローカルアカウント、IPアドレス指定など)が記録されます。NTLMv1の使用など、安全でない認証は警告レベルのイベントとして記録されます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ログの場所 | アプリケーションとサービス ログ ›› Microsoft ›› Windows ›› NTLM ›› Operational |
| クライアント・サーバの設定 | 管理用テンプレート ›› システム ›› NTLM の「NTLM 拡張ログ記録」 |
| DCの設定 | 管理用テンプレート ›› システム ›› Netlogon のドメイン全体のNTLMログのポリシー |
| 従来からある記録 | セキュリティログのイベントID 4624(ログオン)の「認証パッケージ」「パッケージ名(NTLMのみ)」、「ネットワーク セキュリティ: NTLM を制限する」系の監査ポリシー |
分類:原因ごとにまとめる
集めたログを、マシン単位ではなく原因ごとにまとめます。「IPアドレス指定」「SPNの不備」「NTLMを直指定するアプリ」「古い機器」のように分けると、まとめて直せるものと、ベンダーに相談するものが見えてきます。プロセス名が分かれば、担当者も決めやすくなります。
修正:簡単なものから直す
IPアドレスをFQDNに直す、足りないSPNを登録する、重複したSPNを消す、NTLMv1を使っている機器をなくす、スクリプトのNTLM指定をNegotiateに変える、といった作業から始めます。SPNは次のコマンドで確認できます。
DC:SPNの登録先と重複を確認する
setspn -Q cifs/fs01.corp.example setspn -X
試験ブロック:一部から止めてみる
影響の小さい範囲から、NTLMを実際に止めてみます。特権アカウントや重要でないサービスから始め、段階的に広げるのがMicrosoftの勧める方法です。Windows Server 2025とWindows 11 24H2以降のSMBクライアントでは、送信側のSMB接続でNTLMをブロックできます。
クライアント(管理者のPowerShell):SMBクライアントでNTLMをブロックする
Set-SmbClientConfiguration -BlockNTLM $true
グループポリシーでは コンピューターの構成 ›› 管理用テンプレート ›› ネットワーク ›› Lanman ワークステーション の「Block NTLM (LM, NTLM, NTLMv2)」で同じ設定ができます。
既定で無効になる日に備える
他社製品でNTLMを直接使っているものは、ベンダーに対応予定を確認します。IAKerbとLocalKDCが使えるようになったら、DCに届かない端末やローカルアカウントの場面で試します。こうした準備を進めておけば、次のメジャーリリースでNTLMが既定で無効になっても、例外として残すものを最小限にできます。
NTLMを止めると、これまで黙ってNTLMで動いていた接続は「つながらない」という形で表面化します。いきなり全体で無効にせず、監査で使われ方を把握してから、影響の小さい範囲で試すことが大切です。
まとめ
NTLMは、サーバが出した問題にNTハッシュで答え、ドメインのアカウントならDCが答え合わせをする、チャレンジ/レスポンス方式の認証です。パスワードは流れませんが、NTハッシュがパスワードと同じ価値を持つこと、サーバを確かめられないことから、リレーやPass-the-Hashの攻撃に使われてきました。
| 項目 | 押さえておくこと |
|---|---|
| 仕組み | NEGOTIATE → CHALLENGE → AUTHENTICATE の3メッセージ。ドメインのアカウントなら、サーバがNetlogonでDCに確認する |
| NTハッシュ | パスワードをMD4にかけた値。ソルトがなく、これだけで応答を計算できる |
| 今も残る場面 | IPアドレス指定、ワークグループ、SPNの不備、DCに届かない、プロキシ認証、MSCHAPv2、NTLM直指定のアプリ・機器 |
| 危ない理由 | 相互認証がない、リレー、Pass-the-Hash、弱い暗号、見えにくさ |
| 今後 | 2024年に非推奨、NTLMv1は削除。次のメジャーリリースでネットワークのNTLMが既定で無効になる予定 |
| 今からできること | 強化されたNTLM監査で洗い出し、FQDN化・SPNの整備・Negotiateへの切り替えを進める |
NTLMを減らす作業は、そのままKerberosをきちんと動かす作業でもあります。次の記事では、NTLMに代わるKerberosの仕組みを、チケットのやり取りとPACを中心に追っていきます。
この記事は、次の資料を確認して書いています。
Microsoftの発表・NTLM廃止の情報
- Advancing Windows security: Disabling NTLM by default(Windows IT Pro Blog)
- NTLMの廃止に関する情報のまとめ(aka.ms/ntlm)
- Overview of NTLM auditing enhancements in Windows 11, version 24H2 and Windows Server 2025(KB5064479)
- Deprecated features for Windows client
- Resources for deprecated features(NTLM、MSCHAPv2)
- Features and functionality removed in Windows client(NTLMv1)
NTLMのしくみ
- [MS-NLMP]: NT LAN Manager (NTLM) Authentication Protocol
- [MS-NLMP] 3.3.2 NTLM v2 Authentication
- NTLM overview
- Microsoft NTLM(Win32)
- NTLM user authentication(パススルー認証)
- Passwords technical overview(NTハッシュとLM互換レベル)
- How to enable NTLM 2 authentication
NTLMが残る場面と対策
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