【図解】CASBとは?クラウドの「誰が・何を」を見て制御する仕組みを初心者向けに解説

会社のPCから個人のクラウドストレージに資料を上げたら、どうやって止めるのか。生成AIに顧客情報を貼り付けたら、誰が気付けるのか。業務で毎日クラウドサービス(SaaS)を使うようになり、こうした心配はファイアウォールの設定だけでは片付かなくなりました。

この記事では、その役割を受け持つCASB(キャスビー、Cloud Access Security Broker)を、企業でよくある5つの場面から入って説明します。そのうえで、CASBがクラウドアプリをどう評価しているのか、通信のどこに入り込んで制御しているのかを、構成図とシーケンス図で順番に見ていきます。

この記事でわかること
  1. CASBとは何か、URLフィルタやファイアウォールと何が違うのか
  2. 企業でよくある5つの場面で、CASBが何をするのか
  3. クラウドアプリを評価する仕組み(リスクスコア)
  4. CASBが間に入る4つの方式と、シーケンスで見る動き
  5. 導入でつまずきやすい点
この記事について

この記事は、Microsoft、Zscaler、Netskope、Palo Alto Networks などが公開しているドキュメントを参考にしながら、CASBに共通する考え方を一般化してまとめたものです。特定の製品の機能や動作を説明するものではなく、記事の内容がそのまま各製品に当てはまることを保証するものでもありません。

使える機能や動作、必要なライセンスは、製品やバージョン、契約によって異なります。導入や設計の際は、必ず各メーカーや販売代理店に確認してください。

CASBを一言でいうと

CASBは、社員とクラウドサービスの間に立って、会社のセキュリティルールを当てはめる仕組みです。調査会社のGartnerが2012年に定義した言葉で、クラウドの利用者と提供者の間に置く「セキュリティポリシーを実施するポイント」と説明されています。

空港の保安検査場にたとえるとイメージしやすくなります。行き先(どのサービスか)だけでなく、誰が、どの端末から、何を持って、何をしに行くのかを見て、通してよいかを決めます。行き先が同じサービスでも、持ち物や目的によって通したり止めたりできるのがCASBです。

CASB (検査場) 誰が どの端末から どのテナントへ 何をする どんなデータ 通常の資料を 会社のストレージへ 通す ストレージ会社のテナント 顧客リストを 個人のストレージへ 止める ストレージ個人のテナント 行き先が同じサービス(同じドメイン)でも、誰が・何を・どこへ持っていくかで判断が変わる
図1 CASBは保安検査場のように「誰が・何を・どこへ」を確かめる

URLフィルタやファイアウォールでは何が足りないのか

URLフィルタは、Webサイトを「ギャンブル」「ショッピング」「オンラインストレージ」のようなカテゴリに分け、業務に関係のないカテゴリを禁止する使い方が一般的です。判断の単位はサイトで、問いは「そのサイトに行ってよいか」です。ファイアウォールも、主に「どこへ通信するか」で許可と拒否を決めます。

CASBの問いは、そこから一歩奥に入ります。オンラインストレージのように業務で使うサービスは、URLフィルタでは「許可」にするしかありません。許可したサービスの中で、誰が、どのテナント(契約)に、何をしているのかを見える化し、操作ごとに許可・禁止を決めるのがCASBです。同じドメインの上に、自社のテナントも、取引先のテナントも、社員が個人で作ったアカウントも載っているので、サイト単位の判断ではこの区別ができません。

URLフィルタ:サイトに入ってよいか カテゴリやサイト単位で判断する ギャンブル 禁止 ショッピング 禁止 SNS・動画 禁止 オンラインストレージ 許可 ※ 禁止にするカテゴリは会社が決める 中の操作は CASBが判断 オンラインストレージ(の中) CASB:中で何をしてよいか ファイルを見る・編集する 許可 会社のテナントへアップロード 許可 個人のテナントへアップロード 禁止 「リンクを知っている全員」で共有 禁止 個人のPCへダウンロード 禁止
図2 URLフィルタは「入ってよいか」、CASBは「中で何をしてよいか」
知りたいことURLフィルタ・ファイアウォールCASB
判断の単位サイトやカテゴリ(ギャンブル、ショッピングなど)クラウドアプリと、その中の操作
どのサービスかドメインやURLのカテゴリで判断できる数万種類のSaaSを識別し、安全性の評価も付けて判断する
会社の契約か、個人かドメインが同じなので見分けにくいログイン時の情報などから、テナントを見分ける
何をしたかアクセスしたことは分かるが、閲覧・アップロード・共有の区別は苦手閲覧、アップロード、ダウンロード、共有などの操作ごとに制御する
データの中身見ていないDLP(情報漏えい対策)で、機密情報が含まれるかを検査する
社外からの利用会社のネットワークを通らない通信は見えない個人のPCからの利用や、SaaSに保存済みのデータも対象にできる

どちらが優れているという話ではなく、守る階層が違います。最近はURLフィルタとCASBをひとつのクラウドサービスとしてまとめて提供することも多く、両方を組み合わせて使うのが普通です。

補足

CASBが通信の中身(操作の種類やファイル)を見るには、HTTPSの通信をいったん復号する必要があります。そのため、端末にはCASBが発行する証明書を信頼させておきます。証明書の仕組みは 【初心者】公開鍵暗号、認証局、デジタル署名をイメージで解説 で説明しています。

プロキシ経由のHTTPSがどのように流れ、復号するとTLSがどう変わるのかは、【図解】CONNECTメソッドとは?プロキシ経由のHTTPS通信の流れを初心者向けに解説 で説明しています。

CASBの歩み

2012年に定義された当初のCASBは、社員が会社に無断で使っているクラウド(シャドーIT)を見つけることが主な役割でした。その後、データの持ち出しを止めたり、SaaSに保存されたファイルを調べたりと、機能が広がっていきます。

今はCASBを単体の製品として買うより、Webアクセスを守るSWG(Secure Web Gateway)、社内システムへのアクセスを守るZTNA(Zero Trust Network Access)と一緒に、クラウドのサービスとして提供されることが多くなっています。この組み合わせはSSE(Security Service Edge)と呼ばれ、ネットワーク側の機能まで含めたものがSASE(Secure Access Service Edge)です。

2012年 Gartner が CASB を定義 初期はシャドーITの 発見が中心 2019年 Gartner が SASE を提唱 ネットワークとセキュリティを クラウドで提供 2021年ごろ SSE という まとまりが登場 SWG・CASB・ZTNA を ひとつに
図3 CASBの歩み

5つの場面でCASBをイメージする

CASBが何をするのかは、具体的な場面で見るのがいちばん早いです。ここでは、企業でよく話題になる5つの場面を取り上げます。CASBが入り込む場所(会社のPC、個人のPC、SaaSに保存されたデータ)ごとに並べると、図4のようになります。

会社のPC(管理端末) 入り方:フォワードプロキシ CASE 1 生成AIへの 機密情報の貼り付け CASE 3 個人ストレージへの 大量持ち出し CASE 4 未承認サービスの 利用 個人PC・協力会社のPC 入り方:リバースプロキシ CASE 2 見るだけ許可し 保存は禁止 SaaSに保存されたデータ 入り方:API連携 CASE 5 公開リンクの 放置 CASE 3 いつもと違う 大量ダウンロード CASE 3 は、止めるのがフォワードプロキシ、気付くのが行動分析
図4 5つの場面と、CASBが入り込む場所

それぞれの場面の最後に「使う仕組み」をまとめています。そこで「SEQ 1」のように番号を書いたものは、記事の後半「シーケンスで見るCASBの動き」で、通信の流れを詳しく説明しています。

生成AIへの機密情報の貼り付けを止める

開発者がエラーの原因を調べるためにソースコードを、営業が表の整形を頼むために顧客リストを、生成AIのチャットに貼り付けてしまう。今、多くの企業がいちばん気にしている場面です。

顧客リスト・ソースコードを 生成AIに貼り付けて送信 社員(会社のPC) CASB 復号してDLPで検査 → 機密情報を検出 送らない 生成AI 機密情報が含まれるため、 送信を止めました 管理者 記録・アラート
図5 CASE 1:生成AIへの送信をCASBが検査して止める
  1. 会社のPCには専用のエージェントなどが入っていて、通信は常にCASBを通ります。
  2. 生成AIへ送るプロンプトや添付ファイルを、CASBがDLPで検査します。クレジットカード番号のような決まった形の番号、社外秘を示すキーワード、事前に登録した顧客データとの一致などを探します。
  3. 機密情報が見つかれば、その送信だけを止め、止めた理由を画面に表示します。
  4. 違反の記録を管理者に送ります。

生成AIそのものを禁止するのではなく、「会社が契約したワークスペースでの利用は許可し、個人アカウントへのログインは止める」という分け方もできます。

使う仕組み

フォワードプロキシ+DLP。通信の詳しい流れは、後半の SEQ 1(フォワードプロキシで送信の中身を検査する) で説明します。会社と個人のアカウントを分ける仕組みは SEQ 2 です。

個人のPCからは「見るだけ」にする

在宅勤務の社員や業務委託先が、自分のPCから会社のSaaS(Microsoft 365 など)を使いたい。ブラウザで見たり編集したりはさせたいけれど、ファイルが個人のPCに残るのは困る、という場面です。

自宅の個人PC・ 協力会社のPC サインイン IdP 管理外の端末と判定 CASB経由へ CASB 会社のSaaS 操作ごとに判断 ブラウザで閲覧・編集 許可 PCへのダウンロード 禁止 印刷・コピー 禁止 見るだけは許可し、データを手元に残させない(制御できる範囲は製品によって異なる)
図6 CASE 2:管理外の端末は、見るだけ許可してダウンロードは止める
  1. サインインのときに、IdP(ID基盤)が端末を調べます。会社が管理していない端末だと分かると、通信をCASB経由に切り替えます。
  2. ブラウザでの閲覧や編集は、そのまま使えます。
  3. ダウンロードは止めるか、暗号化などの保護をかけたうえで許可します。印刷やコピー&ペーストも制御の対象になります。

この方式で制御できるのはブラウザでの利用です。デスクトップアプリからの接続は対象外になるため、IdPの側で「管理外の端末からはブラウザ以外を許可しない」といった設定を組み合わせます。

使う仕組み

リバースプロキシ+IdPの条件付きアクセス。通信の詳しい流れは、後半の SEQ 3(リバースプロキシで個人のPCのダウンロードを止める) で説明します。

退職予定者の大量持ち出しに気付き、止める

転職が決まった営業担当が、深夜に顧客管理システムから大量のデータを書き出し、個人のクラウドストレージにアップロードしようとする。内部不正としてよく挙げられる場面です。

顧客管理会社のSaaS 深夜に 大量ダウンロード 退職予定の社員 CASB 個人のストレージ 個人テナントへの アップロードを止める 操作の記録 行動分析(UEBA) 普段のダウンロード量 今日 アラート 監視担当(SOC)
図7 CASE 3:アップロードを止める仕組みと、いつもと違う動きに気付く仕組み
  1. 行動分析(UEBA:User and Entity Behavior Analytics)が、普段と比べてダウンロードの量が急に増えたことを「いつもと違う動き」として検知し、そのユーザーの危険度を引き上げます。
  2. 個人のストレージへのアップロードは、通信の途中で止めます。CASBは同じストレージサービスでも会社の契約と個人の契約を見分けられるので、「個人側へのアップロードだけ禁止」にできます。
  3. セキュリティ監視の担当者(SOC)にアラートを送ります。

ここでは「気付く」と「止める」が別の仕組みで動いている点がポイントです。行動分析は普段の行動を覚える学習期間が必要で、SaaSから集めたログを使う検知には時間差もあります。その場で止めるのは、通信の途中にいるフォワードプロキシの役目です。

使う仕組み

行動分析(UEBA)+フォワードプロキシ。会社と個人の契約を見分ける仕組みは、後半の SEQ 2(テナント制限で会社と個人のアカウントを分ける) で説明します。

未承認サービスを止めて、会社のツールへ案内する

大きな設計データを取引先に送るため、会社が認めていない無料のファイル転送サービスを使おうとする。シャドーITの典型的な場面です。

社員(会社のPC) 大容量ファイルを送りたい CASB アプリの評価: 未承認・高リスク 無料の転送未承認 会社のストレージ承認済み このサービスは会社で認められていません。 会社のストレージの共有機能を使ってください OK 理由を入力して続ける 止めるだけでなく、 使ってよいツールへ案内する
図8 CASE 4:未承認のサービスを止め、会社のストレージへ案内する
  1. CASBが持つアプリの評価(カタログ)で、そのサービスが「未承認」や「高リスク」に分類されていると判断します。
  2. アップロードを止め、代わりに使うべき会社のツール(会社契約のストレージの外部共有機能など)を画面で案内します。
  3. 業務上の理由を入力すれば続けられるようにし、その理由を記録しておく使い方もあります。

行き止まりのブロック画面だけを出すと、社員は別の抜け道を探しがちです。理由を説明して正しいツールへ誘導する「ユーザーコーチング」を組み合わせると、現場の反発を抑えながらシャドーITを減らせます。

使う仕組み

アプリの評価(リスクスコア)+フォワードプロキシ+ユーザーコーチング。アプリの評価は、この後の「クラウドアプリをどう評価しているのか」で説明します。通信の流れは SEQ 1 と同じで、判断の材料がDLPの結果ではなくアプリの評価になります。

公開リンクの放置を見つけて直す

クラウドストレージで共有リンクを作るとき、誤って「リンクを知っている全員」にしてしまう。リンクが外に出れば、社外の誰でも資料を開ける状態です。

ファイルの所有者 クラウドストレージ 見積書 (機密) 共有:リンクを知っている全員 共有:社内のみ ② API で設定を直す (隔離することもある) 社外の誰でも CASB API連携 ① 調べる ③ 所有者に「設定を直しました」と通知
図9 CASE 5:API連携で公開リンクを見つけ、社内のみに直す
  1. CASBがSaaSとAPIで連携し、保存されているファイルの共有設定と中身を調べます。
  2. 「公開リンクで共有されている」かつ「機密情報を含む」ファイルを見つけます。
  3. 公開リンクを削除する、社内限定に変える、隔離するといった修正を、APIを使って自動で行います。
  4. ファイルの所有者に、設定を直したことを知らせます。

この場面では、通信の途中にCASBはいません。社員がSaaSを社外から直接操作していても調べられる一方、共有した瞬間に止めることはできず、見つけて直すまでに時間差があります。

使う仕組み

API連携。通信の詳しい流れは、後半の SEQ 4(API連携で公開リンクを直す) で説明します。

CASBの4つの機能(4つの柱)

5つの場面で出てきた機能を整理すると、CASBの説明でよく使われる「4つの柱」になります。GartnerがCASBの機能をこの4つで示したとして、各社の解説で紹介されています。

柱何をするか上の場面
可視化(Visibility)社員がどのクラウドを、どれくらい使っているかを洗い出す。シャドーITを見つけるCASE 4
データ保護(Data Security)DLPで機密情報の送信や共有を止める。公開リンクを直すCASE 1、2、5
脅威対策(Threat Protection)いつもと違う操作やアカウントの乗っ取りを検知する。マルウェアを含むファイルを見つけるCASE 3
コンプライアンス(Compliance)規制や社内ルールに合った使い方になっているかを確かめ、記録を残すCASE 4、5

最近は、SaaSの設定ミス(多要素認証が必須になっていない、外部共有の既定値が広すぎる、など)を点検するSSPM(SaaS Security Posture Management)も、CASBと一緒に提供されることが増えています。

クラウドアプリをどう評価しているのか

CASBは、世の中の数万種類のSaaSを調べたカタログを持っています。社員の通信やログに出てきたサービスをこのカタログと照らし合わせることで、「何が使われていて、それは安心して使えるのか、リスクがあるのか」が分かります。

一般 運営会社・データの保管場所 セキュリティ MFA・暗号化・監査ログ コンプライアンス ISO/IEC 27001・SOC 2 法務 利用規約・データ保持 重みを付けて まとめる リスク スコア 許可 監視・条件付き 禁止 管理者がタグ付け → タグとスコアを条件に「アップロード禁止」「警告して続行」などのポリシーを書く
図10 アプリの評価からポリシーまで

どんな項目で評価しているのか

評価の項目は、だいたい次の4つのグループに分けられます。項目ごとの評価に重みを付けてまとめ、そのアプリがどのくらい安心して使えるかをリスクスコアという数字で表します。

グループ主な項目の例
一般運営会社、設立年、利用の多さ、データセンターの場所(データの保管場所)
セキュリティ多要素認証(MFA)への対応、通信と保存データの暗号化、管理者やユーザーの監査ログ、過去の情報漏えい、既知の脆弱性
コンプライアンスISO/IEC 27001、SOC 2、PCI DSS などの認証・基準への準拠
法務・プライバシー利用規約の内容、データの保持期間、利用者のプライバシー保護

スコアをポリシーにつなげる

スコアはあくまで判断材料です。最終的には、管理者がアプリに「許可」「監視(条件付きで許可)」「禁止」といったタグを付け、それをポリシーの条件に使います。たとえば「禁止タグのストレージにはアップロードさせず、会社のストレージを案内する」「リスクの高い生成AIでは、プロンプトを記録する」といった書き方です。

なお、カタログに載っていないサービスは、そのままでは識別できません。社内向けに作ったサービスなどは、管理者が独自のアプリとして登録しておきます。

CASBはどこに入り込むのか(4つの方式)

CASBが社員とクラウドの間に入る方法は、大きく4つあります。どれか1つで全部を守ることはできないので、守りたい場所に合わせて組み合わせます。図11は、4つの方式をひとつの会社の中に並べた全体像です。

補足

フォワードプロキシとリバースプロキシの違いが分からない場合は、先に 【図解】フォワードプロキシとリバースプロキシの違いとは?企業の構成例で初心者向けに解説 を読むと、この先が分かりやすくなります。

CASB(クラウドのサービス) 本社・拠点 ルータ 在宅(会社のPC) エージェント 個人PC・協力会社 IdP 社内のFW トンネル 通信ログ ① フォワードプロキシ ② リバースプロキシ ③ API連携 ④ ログ分析 未承認SaaS生成AIなど 承認済みSaaS会社の契約 API 管理者・監視担当 アラート ポリシー設定
図11 CASBが間に入る4つの方式(全体像)

CASBそのものはクラウドのサービスとして動いていて、利用者はそこへ通信を送るか、IdPに振り向けられて入ります。管理者は管理画面でポリシーを設定し、検知した内容はアラートやログとして管理者や監視担当に届きます。ここからは、4つの方式を1つずつ見ていきます。

① フォワードプロキシ:会社のPCの通信をすべて通す

本社・拠点 ルータ 在宅(会社のPC) エージェント CASB (クラウドのプロキシ) TLSを復号 アプリ・操作を識別 DLPで中身を検査 ポリシーで判断 トンネル GRE/IPsec エージェントが転送 承認済みSaaS 未承認SaaS 生成AI 管理者 ポリシー設定・ログ確認 端末にはCASBの証明書を 信頼させておく(TLS復号のため)
図12 フォワードプロキシの実装イメージ

会社のPCから出るWeb通信を、すべてCASB経由にします。在宅やモバイルのPCには通信を転送するエージェントを入れ、本社や拠点はルータからGRE/IPsecのトンネルでまとめてCASBへ送ります。ブラウザのプロキシ設定(PACファイル)で向ける方法もあります。PACファイルを自動で配る仕組みは 【図解】WPADとは?DHCP・DNSでプロキシ設定を自動で配る仕組みを初心者向けに解説 で説明しています。

CASBはTLSを復号してアプリと操作を識別し、DLPで中身を調べ、ポリシーで判断してからSaaSへ中継します。承認済みかどうかに関係なく、どのサービスへの通信でもその場で止められるのが強みです。一方で、エージェントや証明書を入れられない、会社が管理していない端末は対象にできません。

② リバースプロキシ:サインインのときに経由させる

自宅の個人PC・ 協力会社のPC IdP 端末を判定(条件付きアクセス) ① サインイン ② CASBのURLへ CASB リバースプロキシ ③ 以降はCASB経由 中継 承認済みSaaS ●●● ブラウザ https://www.example-saas.com.casb.example/files アドレス欄のURLの後ろにCASBのドメインが付く(画面内のリンクも書き換えられる) 管理外の端末は 閲覧だけ許可し ダウンロードは禁止
図13 リバースプロキシの実装イメージ

個人のPCのように、エージェントを入れられない端末に使います。利用者がSaaSにサインインすると、IdPが端末の状態を調べ、管理外の端末であればCASBのURLへリダイレクトします。以降の通信はCASBが中継し、画面の中のリンクもCASB経由のURLに書き換えます。

利用者から見ると、ブラウザのアドレス欄にSaaSのURLの後ろにCASBのドメインが付いた形で表示されるのが目印です。対象はIdPと連携させた承認済みのSaaSで、ブラウザからの利用に限られます。

③ API連携:SaaSの中を後から調べる

会社のPC 自宅・外出先 社外の取引先 CASBを通らずに、直接SaaSを使う 承認済みSaaS 保存されたファイル 共有設定 操作ログ・設定 CASB API連携 調べる 直す 最初に管理者が SaaS側でAPI接続を許可 管理者 アラート
図14 API連携の実装イメージ

SaaSが提供する管理用のAPIを使って、保存されているファイル、共有設定、操作ログを調べます。最初に管理者がSaaSの管理者アカウントでCASBからのAPI接続を許可しておくと、あとはCASBが変更の通知や定期的なスキャンでSaaSの中を確認します。

通信の途中にいないので、社外の取引先が使った場合でも、過去に保存されたデータでも調べられます。ただし、その場で止めることはできず、検知や修正までに数時間かかることもあります。

④ ログ分析:ファイアウォールやプロキシのログを読む

本社・拠点 FW・プロキシ クラウド 普段どおりの通信 ログ コレクター 通信ログ 送る CASB ログ分析 レポート ストレージA チャットB 転送サービスC 利用者数・通信量・リスク 通信は止めない(見える化)
図15 ログ分析の実装イメージ

社内のファイアウォールやプロキシの通信ログを、ログコレクター(ログを集める社内のサーバ)を経由してCASBに送り、どのクラウドが、誰に、どれくらい使われているかを洗い出します。結果は、利用中のクラウドの一覧とリスクの評価を並べたレポートとして管理者に届きます。

導入の手始めとして、シャドーITの実態をつかむのに向いています。ログを読むだけなので、これ単体では通信を止めません。

4つの方式の比較

方式その場で止める得意なこと苦手なこと
① フォワードプロキシできる会社のPCからの、承認済み・未承認を問わないSaaS利用管理外の端末。復号できない通信
② リバースプロキシできる個人のPCや協力会社のPCからの、承認済みSaaSの利用デスクトップアプリ。未承認のSaaS。SaaS側の画面の変更で動かなくなることがある
③ API連携できない(後から修正)保存済みのデータ、共有設定、社外からの直接利用アップロードや共有の瞬間を止めること。APIを持たないSaaS
④ ログ分析できない(見える化)組織全体のシャドーITの洗い出し通信を止めること。操作の中身
最近の流れ

個人のPC向けには、リバースプロキシの代わりに、ブラウザ自体でダウンロードやコピーを制御する方法も増えています。画面だけを端末に送る「ブラウザ分離」や、会社が配る「エンタープライズブラウザ」などです。目的は同じで、管理外の端末にデータを残さないことです。

シーケンスで見るCASBの動き

前半の5つの場面で「使う仕組み」に「SEQ 1」などと書いたものを、ここでシーケンス図にして詳しく追いかけます。誰と誰がやり取りし、CASBがどこで判断しているのかに注目してください。

シーケンス内容対応する場面
SEQ 1フォワードプロキシで、送信の中身を検査するCASE 1(CASE 4も同じ流れ)
SEQ 2テナント制限で、会社と個人のアカウントを分けるCASE 1、CASE 3
SEQ 3リバースプロキシで、個人のPCのダウンロードを止めるCASE 2
SEQ 4API連携で、公開リンクを直すCASE 5

フォワードプロキシで、送信の中身を検査する

CASE 1(生成AIへの機密情報の貼り付け)の詳しい流れです。会社のPCの通信は、最初からCASBを通るようになっています。

社員 会社のPC CASB フォワードプロキシ 生成AI Webサービス 管理者 ログ・SIEM エージェントなどで、PCの通信は常にCASBを通る プロンプトを送信 (HTTPS の POST) 1 TLS を復号して中身を取り出し、 DLP で検査 → 機密情報を検出 送信を止め、理由を表示 2 違反をログ・アラートで送る 3 機密情報がなければ、CASB はそのまま生成AIへ転送する
図16 SEQ 1:フォワードプロキシでの検査の流れ

CASBはTLSを復号してプロンプトを取り出し、DLPで調べます。機密情報があれば送信はそこで止まり、生成AIのサービスには届きません。問題がなければ、社員は普段どおり使えます。CASE 4の未承認サービスも同じ流れで、判断の材料がアプリの評価に変わるだけです。

テナント制限で、会社と個人のアカウントを分ける

CASE 1とCASE 3で出てきた「会社の契約と個人の契約を見分ける」仕組みです。ドメインが同じでも分けられるのは、ログインのときに仕掛けがあるからです。

社員 会社のPC CASB フォワードプロキシ SaaS ログイン画面 個人アカウントでログイン 1 ログイン先への通信を復号し、 「自社テナントだけ許可」のヘッダーを足す ログイン要求+ヘッダー 2 ヘッダーを見て、 自社以外へのログインを拒否 拒否の画面 3 そのまま表示 4 会社のアカウントなら許可される。ドメインは同じでも、会社と個人を分けられる
図17 SEQ 2:テナント制限の流れ

CASBは、ログイン画面への通信に「このテナントだけ許可する」という情報をHTTPヘッダーとして付け足します。SaaSの側がそのヘッダーを見て、自社以外のテナントへのログインを断ります。たとえば Microsoft 365 では、Restrict-Access-To-Tenants などのヘッダーが決められています。CASBとSaaSが協力して実現する仕組みなので、SaaSの側が対応していることが前提です。

リバースプロキシで、個人のPCのダウンロードを止める

CASE 2(個人のPCからは見るだけ)の詳しい流れです。IdPとCASBが連携して、管理外の端末からの通信だけをCASB経由に切り替えます。

社員 個人のPC IdP 条件付きアクセス CASB リバースプロキシ SaaS 例:SharePoint SaaS にアクセス 1 サインインのため IdP へリダイレクト 2 サインイン(ID・MFA) 3 会社が管理していない端末と判定 → CASB を経由させる CASB の URL へリダイレクト 4 CASB 経由で接続 5 代わりにアクセス 6 画面を返す 7 画面内のリンクを CASB 経由の URL に書き換える 画面を表示(閲覧・編集はできる) 8 ファイルをダウンロード 9 ポリシー:管理外の端末はダウンロード禁止 ダウンロードできない旨を表示 10
図18 SEQ 3:リバースプロキシの流れ

ポイントは、リダイレクトでCASBのURLに入ったあと、CASBが画面の中のリンクも書き換えていることです。これにより、画面の中でクリックした先も、CASBを通り続けます。IdPでのリダイレクトにはSAMLなどのシングルサインオンの仕組みが使われます。SAMLの流れは 【SAML】シングルサインオン(SSO)の動作概要 を参照してください。

API連携で、公開リンクを直す

CASE 5(公開リンクの放置)の詳しい流れです。CASBは通信の途中ではなく、SaaSの外から調べています。

社員 ファイルの所有者 SaaS クラウドストレージ CASB API連携 管理者 ログ・SIEM 「リンクを知っている全員」で共有 1 変更を通知(イベント) 2 API でファイルと共有設定を取得 3 公開リンク × 機密情報 を見つける API で公開リンクを削除・社内限定に 4 所有者に通知 5 インシデントとして記録 6 通信の途中にいないので、共有した瞬間は止められない。見つけて直すまでに時間差がある
図19 SEQ 4:API連携の流れ

SaaSからの変更通知を受けて調べるほか、定期的な全体スキャンで過去のファイルも確認します。見つけたら、管理者が設定した内容に沿って、APIで共有設定を変えたり、ファイルを隔離したりします。

導入でつまずきやすいポイント

ポイント起きること対策の例
TLSの復号端末が証明書を信頼していないと警告が出る。証明書を固定しているアプリや相互TLSの通信は復号できない証明書をMDMなどで配る。復号できない通信は除外し、API連携で補う
プライバシー通信の中身を見ることへの社内の抵抗社内規程と周知をそろえる。金融や医療など私的なサイトは復号から外す
いきなりブロック業務が止まり、別の抜け道が使われるログ分析で現状をつかみ、警告(コーチング)から始めて、ブロックへ進める
APIの時間差アップロードや共有の瞬間は止められない止めたい操作はフォワードプロキシやリバースプロキシで制御する
デスクトップアプリリバースプロキシはブラウザしか制御できない管理外の端末からは、IdPでブラウザ以外の接続を許可しない

まとめ

CASBは、URLフィルタのように「そのサイトに入ってよいか」を決めるのではなく、許可したクラウドの中で「誰が・どの端末で・どのテナントに・何を・どんなデータを」を見て制御する仕組みです。会社のPC、個人のPC、SaaSに保存されたデータで入り方が違うので、守りたい場所に合わせて方式を組み合わせます。

守りたい場所方式できること(場面)
会社のPCフォワードプロキシ生成AIへの機密情報の送信を止める(CASE 1)、個人ストレージへの持ち出しを止める(CASE 3)、未承認サービスから会社のツールへ案内する(CASE 4)
個人のPC・協力会社のPCリバースプロキシ(ブラウザ分離など)見るだけ許可し、ダウンロードを止める(CASE 2)
SaaSに保存されたデータAPI連携公開リンクを見つけて直す(CASE 5)、いつもと違う操作に気付く(CASE 3)
組織全体ログ分析シャドーITを洗い出す(導入の手始め)

設計を考えるときは、「この場面はどの方式で守るのか」「その方式で守れない部分はどこか」を表にしてみると、必要な機能が見えてきます。製品ごとに使える機能や制御できる範囲は異なるため、具体的な製品の選定や設計は、メーカーや販売代理店に確認しながら進めてください。

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